あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて
これは宮沢賢治の作った歌です。
「星めぐりの歌」と言います。
優しいやさしい歌です。
YouTubeで紹介しますね。
よかったらご視聴下さい。
優しいやさしい歌。
ずっと聞いていたくなる歌です。
賢治はさそりのことを「銀河鉄道の夜」の中で女の子に語らせています。
「むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見附(みつ)かって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命遁(に)げて遁げたけどとうとういたちに押(おさ)えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりは溺(おぼ)れはじめたのよ。そのときさそりは斯う云ってお祈(いの)りしたというの、
ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉(く)れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さん仰(おっしゃ)ったわ。ほんとうにあの火それだわ。」
「そうだ。見たまえ。そこらの三角標はちょうどさそりの形にならんでいるよ。」
ジョバンニはまったくその大きな火の向うに三つの三角標がちょうどさそりの腕(うで)のようにこっちに五つの三角標がさそりの尾やかぎのようにならんでいるのを見ました。そしてほんとうにそのまっ赤なうつくしいさそりの火は音なくあかるくあかるく燃えたのです。
自分の命が他者の犠牲の上で成り立っていたことに気づいたさそりは、賢治の別の作品「よだかの星」のよだかの思いとも通じています。
さそりは毒虫として恐れられる存在ですし、よだかは作品の中で嫌われ者として描かれています。
ところが命を落とす間際に自分がこれまでたくさんの命を奪ってきたことに気づく。すると夜空の星となっていくのです。
さそりは赤い星として。
よだかはよだかの星として。
賢治は裕福な家庭に生まれ育ったけれど、それは貧しいものの犠牲の上で成り立っている、そんな風に感じていたフシがあります。
弱いものの立場をわかろうとし続けた賢治は亡くなる寸前まで弱いものに寄り添いました。
さそり座の赤い星を見上げたら是非思い起こしてみたいですね。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。